連載
レトロンバーガー Order 68:「シャンティ」のゲームボーイカラー互換カートリッジが届いたから19年も経つといろいろ変わるよなーとか言う編
賢者に尋ねず,先人に尋ねよ。
(اسأل مجرب ولا تسأل حكيم)
ぶっちゃけアラビア語の綴りが合っているのか分かりませんが,Google先生に英訳をぶん投げたら「Ask the experienced, and do not ask the wise」とのことなので合ってるはずですし,日本語にしたら上記みたいな感じでしょう。何か話を聞くなら,聞き齧りの知識ばかり豊富な奴より,実践経験がある奴の方がいいぞってことですね。
世の中,「分かっているつもりで実は本質をつかめていないもの」は多々あるものです。例えば「スーパーマリオブラザーズ」のゲームシステムがどういったものかを問えば,多くの人が概要を答えられるでしょうが,筆者が昔購入したスーマリクローンの某同人ゲームは「(自機の状態にかかわらず)ジャンプボタンを押すと縦軸方向に一定高度まで移動」という設計だったため,ジャンプボタン連打によって空中浮遊してゴールまで行くことが可能で,開発者が「スーパーマリオブラザーズ」のシステムをロジカルな意味では把握できていなかったことが感じられました。
そう,一目瞭然・人口膾炙と思われていることでも,正確な仕様や,そうなっている理由などは矯めつ眇めつ眺めなければ分からないもの。オーソドックスなサイドビュー型プラットフォームアクションアドベンチャーゲームにしても,改めて見てみると発見があるでしょう。というわけで今回は,そのジャンルに精通したメーカーのタイトルでやっていきましょう。
Limited Run Gamesからゲームボーイカラー互換ソフト「Shantae」(シャンティ)が届いたから! それで!
「ワイルド・スピード」シリーズの邦題って順番が分かりにくいよね的な
WayForwardが開発した「Shantae」は,ジーニーの母と人間の父を持つハーフジーニーの少女・シャンティを主人公としたサイドビュー形式のアクションアドベンチャーゲーム。ジーニーは,ざっくり言えばアラブ世界に伝わる妖精や魔神で,青いウィル・スミス的な“ランプの魔神”や,召喚獣とかモビルスーツバリエーションとかでおなじみの“イフリート”もジーニーの一種です。
シリーズ作品は現時点で全5作がリリースされていますが,国内でのリリースは3作目からですし,タイトルがナンバリング形式でないため発売順や大元のプラットフォームが分かりにくいのは否めないところ。なので,ざっくりまとめてみましょう。
- Shantae 初出:ゲームボーイカラー(2004年)
- Shantae: Risky's Revenge(シャンティ -リスキィ・ブーツの逆襲-) 初出:ニンテンドーDS(2010年,DSiWare)
- Shantae and the Pirate's Curse(シャンティ -海賊の呪い-) 初出:ニンテンドー3DS(2014年)
- Shantae: Half-Genie Hero(シャンティ:ハーフ・ジーニー ヒーロー) 初出:PC / PS4 / PS Vita / Wii U / Xbox One(2016年)
- Shantae and the Seven Sirens(シャンティと7人のセイレーン) 初出:iOS(2019年,Apple Arcade)
移植:ニンテンドー3DS / Nintendo Switch
移植:PC / PS4 / Nintendo Switch / Wii U / Xbox One / iOS / Stadia(オリジナル以外はDirector's Cut版)
移植:PC / PS4 / Nintendo Switch / Wii U / Xbox One / Amazon Fire TV
移植:Nintendo Switch / Stadia
移植:PC / Mac / PS4 / Nintendo Switch / Xbox One
※海外向けに,全作のPS5版および「Shantae」のPS4版も発売予定。
国内向けの展開のみ言及すると,「Shantae」は国内版未発売,「シャンティ -リスキィ・ブーツの逆襲-」はオーイズミ・アミュージオがPS4 / Wii U版を販売中,「シャンティ -海賊の呪い-」はオーイズミ・アミュージオがPS4 / Nintendo Switch / 3DS / Wii U版を販売中(3DS / Wii U版は旧インターグローによるもので,訳文が異なる)で,PC版はGoG.comおよびDMM GAMESで販売のものが日本語対応(Steam版は日本語非対応),「シャンティ:ハーフ・ジーニー ヒーロー」「シャンティと7人のセイレーン」はモバイル版を除き日本語対応という形です。
いろんなプラットフォームで発売されているうえ,PS4版がPlayStation Nowで提供されているタイトルがあったり,Xbox One版は本稿掲載時点だとセールが行われていたりしますので,どれがベストというのも言い難く「ご購入の場合は,お好みのプラットフォームをご利用ください!」といった感じです。いちおう,基本的に後発のバージョンほど追加要素がある(ニンテンドー3DSの立体視対応などを除く)のと,Steamでは「Shantae: Half-Genie Hero」と「Shantae: Half-Genie Hero Ultimate Edition」が別で売られている点は要注意ですが。
あくまで「ゲームボーイカラーなどに挿すとなぜかゲームが起動する不思議なROM」だよっていう
Nintendo Switch版はゲーム本編のほか,ゲームボーイアドバンスでゲームボーイカラー版をプレイした環境を再現する“GBA ENHANCED”モードと,アートワークやドット絵集など16点のグラフィックスを閲覧できる“EXTRAS”が搭載されています。
ゲームボーイカラー版「Shantae」が発売されたのは2002年で,発売元はカプコンの北米法人・Capcom USAでした。当時はゲームボーイアドバンスの発売から1年以上が過ぎていたこともあり,ゲームボーイカラー市場はいよいよ終息しようとしていた頃。カプコンはまだ市場に残っていたものの,注力していたのはやはりゲームボーイアドバンス市場で,同年には「ロックマンゼロ」や「超魔界村R」をリリースしていました。
まして,翌年のE3 2003ではソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)がPSPを発表,続くE3 2004では任天堂がニンテンドーDSを発表,2004年12月にはPSP/ニンテンドーDSが発売と,“携帯ゲーム機”が概念レベルから変わろうとしていた時期。カプコンはPSPにローンチタイトルを提供していたものの,2002年の段階でPSPの情報を得ていたかはビミョーなところですが,それにつけても「2002年発売のゲームボーイカラー用ソフト」が商材として“弱い”ものだったということは想像に難くありません。「Shantae」は北米で1次ロットが出荷されただけ(一説によると2万本台)で商品展開が終了したそうです。
WayForwardは「Shantae」発売後にゲームボーイアドバンス向けやプラグアンドプレイ機向けの続編などを計画していたのですが,パブリッシャを見つけられず,いずれも頓挫してしまったとか。当時の携帯ゲーム市場は革新を急いでいた……ゲームボーイカラー用ソフト「バイオハザードGAIDEN」や「メタルギア ゴーストバベル」から,たった4年ほどでニンテンドーDS用ソフト「バイオハザード Deadly Silence」やPSP用ソフト「メタルギア アシッド」が出てくるというご時世だったので,旧態的なゲームはパブリッシャに好まれなかったのでしょう。
携帯ゲーム機向けタイトルの進化について言えば,2003年にゲームボーイアドバンス用ソフト「Grand Theft Auto Advance」が発売されて,その2年後にPSP用ソフト「Grand Theft Auto:Liberty City Stories」が発売されるとか,2003年にゲームボーイアドバンス用ソフト「Crazy Taxi: Catch a Ride」が発売されて,その4年後にPSP用ソフト「Crazy Taxi: Fare Wars」が発売されるとか,海外市場には「無茶移植! かーらーのーハイクオリティ版!」みたいな現象が散見されて面白かったですね。ゲームボーイアドバンスと言えば「Space Channel 5: Ulala's Cosmic Attack」も楽しい無茶移植でしたし,個人的には「鉄拳アドバンス」「THE KING OF FIGHTERS EX 2 〜HOWLING BLOOD〜」「ストリートファイターZERO3↑」の3タイトルは“ゲームボーイアドバンス無茶移植格ゲー三勇士”として讃えたいくらいです。あと「グラディウスジェネレーション」もけっこう好き。
BLAZEのアンオフィシャルアクセサリ「GBA/GBA SP AV Adapter」が今でも欲しいのに海外ストアやebayで見たことがないんだけど的な話もありますが閑話休題(それはさておき)。そんなこんなで,いわば“時代に敗北”した「Shantae」でしたが,時代の風向きは変わるもの。2008年のニンテンドーDSi発売にあわせてDSiWareの提供が開始され,「これなら比較的小規模なゲームを自社販売できる」と踏んだWayForwardは8年越しの続編「Shantae: Risky's Revenge」をリリース。改めて好評を得て,今日に至るシリーズ展開が始まりました。
足がけ19年も続いているシリーズなので,最新の「〜7人のセイレーン」と初代「Shantae」は異なる部分が多くあるのですが,システム面で“初代特有”となっている要素の1つが,「特定のボタンを押しながら移動するとダッシュ」というものです。設計としては「スーパーマリオブラザーズ」的な考え方ですが,ゲームにおける“ダッシュ”は「速い反面,制御が難しい」や「速い反面,スタミナを消費する」といったトレードオフの要素があって成立するものであり,「移動が速くなる」だけだと「通常移動が不便」のような単なるマイナス要素を生み出してしまう,案外コントロールが難しい要素。「Shantae」もその例に漏れず,「〜リスキィ・ブーツの逆襲」で「通常移動はダッシュ/特定のボタンを押しながら移動すると歩き」と操作が逆転したうえ,さらにその後は“歩き”自体が撤廃されました。不便を感じさせるシステムは良くない……と言うか,「そのシステムが不便を生じさせていないか気付くことが大事」というわけですね。
「Shantae」の会話シーンは画面下のテキストウィンドウを使って進められていきますが,こういう場面で立ち絵や顔アイコンが出ないのは寂しいところ。逆に,筆者が2000年頃めっちゃプレイしていたゲームボーイカラー用ソフト「機動戦艦ナデシコ ルリルリ麻雀」は,大きめの顔アイコンがポンポン出てきて見た目的に楽しかったものです。シャンティシリーズは「〜リスキィ・ブーツの逆襲」でビジュアルノベル的な立ち絵を導入。いったん「〜ハーフ・ジーニー ヒーロー」でテキストウィンドウの端に小さく表示される形となりましたが,その反動か「〜7人のセイレーン」では画面をほとんど縦いっぱいに使ったうえ,簡易的なアニメーションもするという形になりました。レトロゲームには小さいドット絵から実際のビジョンを想像する面白さもありますが,基本的に「キャラ絵はドカンとでっかく!」というのは大事なことです。
シリーズ展開の中で変わる部分がある一方,全作を通じて大きな変化が無いのはポニーテールの髪を使った攻撃アクション。アクションゲームはシリーズ展開が進むと,戦闘が派手な方向にインフレしがちですが,ステージギミックを工夫すればミニマムなワンアクションを基軸としたままゲームデザインに幅を持たせられます。「キャラクターの個性を変えるよりも環境を工夫しろ」ということですね。
「Shantae」はアクションアドベンチャーゲームの中でも,ギミックよりアクションでの突破を重視した設計です。ギミック要素はシリーズを重ねるごとに減っていき,「〜ハーフ・ジーニー ヒーロー」以降は輪をかけてアクション寄りに。ここは「もっとメトロイドヴァニア的なのが良いんだ!」という人もいれば,「どんどんアクションゲームとして進化してくれ!」という人もいるでしょうし,それらを両立することも難しいので,なかなか「ここが良い」みたいなことが言いにくいところです。ただ特定のゲームデザインに傾倒することは,独自性を欠いたり,それを望まないユーザーに色眼鏡で見られたりすることにもつながりますので,シャンティシリーズとしては「あえて型にはまったゲームデザインは避ける」ということなのかもしれません。
「〜海賊の呪い」以降のイラストレーションは,それを手がけているKOU氏自身がネタにしていたりもしますが,画調が固まりません。それというのも(あくまで筆者の見解ですが)「〜海賊の呪い」では“ゲーム内のドット絵に対する高解像度版”,「〜ハーフ・ジーニー ヒーロー」では“ゲーム内のグラフィックスに画調をあわせたクローズアップ版”,「〜7人のセイレーン」では“前作をベースとしつつ,アニメーション演出の採用を踏まえたディテール追加版”と,それぞれデザインコンセプトが異なるからではないでしょうか。恐らく「基軸は保ちつつ,状況やニーズに応じてディテールを変えていく」という方針なのでしょう。「特定のIPは特定の絵柄で描かれた方が良い」と思う人もいるでしょうが,絵柄が変わるというのは,プレイヤーに「古びれた」という印象を持たせない効果もあります。
「基軸は保ちつつディテールを変えるって,シリーズ展開では当たり前じゃん?」と思われるかもしれませんが,何か理由があってディテールを変えていくと,いつの間にか基軸までズレてしまうことは起こりがちです。この連載も冒頭で格言を引用するフォーマットを「連続体としてのまとまりが出るんじゃないか」と取り入れてみたら,中期までやっていたミニインタビュー回みたいなのが構造的にやりにくくなって「どうすっかなー」と悩んだりしてますし。ゲームも「あのシリーズは形態を変えつつもスピリッツを継承できているけど,そのシリーズは“基軸の構成要素”をコピーしているだけでコンセプトが形骸化してる」のようなケースは往々にしてありますし,ゲームメディアにしても……いや,うん,まあね。
まあ話をシャンティに戻して
「〜7人のセイレーン」のPCおよびコンシューマ機向けエディションが出たのは昨年なので気が早い話ですが,やっぱり気になるのは第6作。WayForwardは「手描きアートスタイルを採用したアクションゲーム」だという「RWBY: Arrowfell」を開発中ですので,現状だと2Dアクションゲームの開発リソースはそちらに注がれているはず。第6作があるとしたら,旧作をリリースしてきたペースから考えても,恐らく2022年後期以降となるでしょう。
「RWBY: Arrowfell」正式発表。人気3DCGアニメのアクションゲームは2022年リリース予定
アークシステムワークスは本日(2021年7月10日),3DCGアニメ「RWBY」のゲームプロジェクトの正式タイトルを「RWBY: Arrowfell」と発表した。2022年にPC / PS5 / Xbox Series X / Switch / PS4 / Xbox One向けにリリース予定となっている。
それまでにPS5版もリリースされる予定ですし,そういった流れの中で国内向けのPS5版および「Shantae」もリリースされるかもしれません。座して待ちましょう。
あと,Limited Run Gamesのシャンティ祭りでスチールブック(鉄製ソフト収納ケース)も買ってみたところ,販売期間が別だった「Shantae and the Seven Sirens」版が無いことが今になって気になりだしたので,再販される日を座して待ちたいところです。「River City Girls」(これもWayForward開発)の,キョウコ&ミサコのぬいぐるみは再販されていますし,スチールブックもまた……いや,ぬいぐるみはFangamer製だからってのもあるしな……?