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Access Accepted第558回:欧米ゲーム業界の10年間を,1つのメーカーを軸に振り返る
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印刷2017/12/11 12:00

業界動向

Access Accepted第558回:欧米ゲーム業界の10年間を,1つのメーカーを軸に振り返る

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 10年という歳月が短く感じられるのは筆者が歳をとってきたからだろうが,欧米ゲーム業界もこの10年,大なり小なり変化してきた。オンライン対戦やインディーズゲームの発展をバネにしたPCゲームの復活や,モバイルゲーム,VRゲームの誕生などは,10年前には予想もしていなかったことだ。2017年も終わりに近いこのタイミングで,これまでの10年間を1つのゲームメーカー,Vivendiを軸に振り返ってみよう。


Activision Blizzardの誕生からきっかり10年


 まさに10年前の2007年12月に誕生したのが,現在の欧米ゲーム業界のリーダーとも呼べるActivision Blizzardだ。総額81億ドル(当時の邦貨で約8600億円)もの巨大な資金が動いた合併劇を主導したのは,フランスのVivendi Gamesだった。
 当時の様子は本連載の第158回「Activision Blizzardが起こす再編成の波」に詳しく書いたが,当時「Call of Duty」シリーズと「Guitar Hero」シリーズという2つのミリオンヒットを擁するActivisionと,Vivendi Games傘下の企業の中で唯一,「World of Warcraft」で大きな売り上げを挙げていたBlizzard Entertainmentが一緒になったのだから,業界にもゲーマー達にも激震が走ったのだ。

 ちなみにBlizzard Entertainmentはこのとき,「StarCraft II: Wings of Liberty」(2010年)と「Diablo III」(2012年)の開発を進めており,いずれもヒット作となった。また,Activisionの「コール オブ デューティ」シリーズは,「コール オブ デューティ 4 モダン・ウォーフェア」(2011年)が2600万本,翌年の「コール オブ デューティ ブラックオプス II」が2400万本という空前の記録を達成するという,両社とも飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

シリーズ最新作「コール オブ デューティ ワールドウォーII」。ゲームも時代設定もゾンビモードも面白いが,注目したいのは表情を含むグラフィックス表現だ。2013年頃から開発されてきたレンダリング技術(関連記事)が使用されていると思われる
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 上記の記事で筆者は,「ゲーム業界で再編が行われていくはず」だと書いているが,翌2008年,今度はElectronic ArtsがTake-Two Interactiveを20億ドルで買収しようという動きが報道された(関連記事)。Take-Two Interactiveは,「グランド・セフト・オート」シリーズのRockstar Gamesと「シビライゼーション」「XCOM」のFiraxis Games,さらに多くのスタジオを抱えているが,当時,上層部の内紛と,期待作である「Grand Theft Auto IV」の発売延期で経営危機が伝えられており,Electronic Artsもその頃,ヒット作に恵まれないという事情があった。

 結局,価格交渉が折り合わず,その年のうちに統合話はお流れになったが,統合を図ったElectronic Artsは現在,「バトルフィールド」シリーズやEA SPORTSブランドの安定した人気で株価を大きく戻し,Take-Two Interactiveは2010年の「Red Dead Redemption」の成功に続き,「グランド・セフト・オート V」が驚異的なセールを達成しており,両社とも欧米ゲーム産業の中核企業になっている。あのとき合併していたら現在の市場地図はどうなっていただろうか,などと思わず考えてしまう。

ナポレオン三世の時代に水道業者として生まれたフランスの大手メディア系企業Vivendiは現在,ゲーム業界への再参入を狙っている
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 さて,Activision Blizzardの成功によってVivendi Gamesは大きな利益を得たはずだが,親会社であるVivendiがフランスでの事業に失敗して,6年後の2013年には経営状態が悪化。そこで,利益を挙げているVivendi Gamesの株式売却を図ったのだが,どこの誰とも分からない企業に株を買われるのを嫌ったActivision Blizzardが自社株4億3900万株を買い集めるという積極的な動きに出た。参考までに,2013年頃の同社の株価は,現在の5分の1にあたる1株12ドル前後で推移していたようだ。

 さらにActivisionの会長兼CEOであるロバート・コティック(Robert Kotick)氏と副会長のブライアン・ケリー(Brian Kelly)氏らが設立した投資会社が追加で1億7200万株を購入したことで,Activision Blizzardは同社株式の24.9%を掌握。一気に筆頭株主となって経営権を獲得し,Vivendiの傘下から独立企業に戻った。同じ2013年には,5億ドルで10年間の契約をBungieと結び,「Destiny」をリリースするなど,現在も同社は絶好調だ。


IPの混乱でゲーマーにもデメリットが


 ゲーマーとして気になるのが,Activision Blizzard設立時にVivendiの傘下だったSierra Entertainmentの例だ。ゲーム黎明期の1979年,「Mystery House」で大成功したケンロバータ(Ken & Roberta Williams)ウィリアムス夫妻が立ち上げた同社(設立当時の名称はOn-Line Systems)は,「King’s Quest」「Gabriel Knight」といったアドベンチャーゲームを中心に,初期のゲーム市場で大きな存在感を発揮していた。同社の作品を遊んだという古参ゲーマーも,読者の中にはいるはずだ。

2002年にリリースされたシリーズ第2弾,「No One Lives Forever 2: A Spy in H.A.R.M.'s Way」ケイト・アーチャーの復活はもうないだろう
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 しかし3Dグラフィクスの時代にうまく対応できず,1990年代末に経営難には陥る。最初はCUC Internationalに買収され,Havas,そしてVivendiと,次々に親会社が変わっていったことは本連載の第159回,「巨人となったVivendiの歴史」でお伝えしたとおりだが,同社は開発スタジオをUbisoft EntertainmentやCodemastersに売却したのち,Activision Blizzardの傘下に入った。現在は,ほぼ活動を休止している状態だ。

 問題は親会社が変わる際,Sierra EntertainmentのIPのいくつかがActivision Blizzardに移管されなかったことで,こうしたタイトルが現在,誰が権利者なのか不明瞭になっている。
 例えば2000年にリリースされたMonolith ProductionsのFPS「The Operative: No One Lives Forever」シリーズのIPは,あまりにも入り組んだ状況になっており,所有者が誰か分からない。そのため新作がリリースされることは,おそらく二度とないだろう(関連記事)。


Ubisoftは敵対的買収の防衛にひとまず勝利か


 経営が落ち着いたと思われるVivendiは,2015年になって再びゲーム産業への参入を試みた。そのターゲットになったのは,同じフランスの大手Ubisoft Entertainmentだ。本連載の過去記事の引用ばかりで恐縮だが,この件についても本連載の第476回「Vivendiが仕掛けたUbisoft買収の動き」で詳しく説明しているので,興味のある人は参照してほしい。

 Ubisoft Entertainmentに対するVivendiの攻勢は完全な敵対的買収で,1986年の設立以来,同社を率いてきたCEOのイヴ・ギルモ(Yves Guillemot)氏ら経営陣は防戦に追われることになった。Vivendiは2016年末までには,全株式の25%を保有して筆頭株主に躍り出ており(関連記事),明けた2017年の初めには,「Ubisoft Entertainmentの買収は年内に終了する」と豪語していた。

 しかし,そんなVivendiの思惑は外れてしまう。2017年のUbisoft Entertainmentは絶好調で,2年ぶりのシリーズ最新作「アサシンクリード オリジンズ」のほか,「マリオ+ラビッツ キングダムバトル」「ゴーストリコン ワイルドランズ」「Star Trek: Bridge Crew」「Just Dance 2018」,そして「フォーオナー」と,レベルの高い作品が次々にリリースされた。2015年にサービスを開始した「レインボーシックス シージ」は,リリースから約2年を経た現在も人気が衰えず,2500万アカウントに到達したことが発表された。このように,売り切り型ではない「継続したサービスとしてのゲーム」 への転換にも成功している。

 投資家達は,Ubisoft Entertainmentの方向性やラインナップに満足しており,企業価値が高まったことで敵対的買収は難しくなった。ギルモ氏らの防衛策も功を奏しているようで,CNBCが11月に報じたところでは,VivendiはUbisoft Entertainmentの完全買収をすでに諦めたという。

YChartsによる,大手各ゲームメーカーの,過去5年の収益率。こうしてみると,ゲーム関連企業の運用利回りはなかなかのものであるようだ
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 以上,過去10年の欧米ゲーム業界の動きをVivendiを軸に振り返ってみた。ゲーム市場の規模が順調に拡大する中,それぞれのメーカーは山あり谷ありで,こうした変化の激しさも,ゲーム業界の特質の1つだろう。業界ウォッチャーとして,興味は尽きない。
 現在,Vivendiは欧米ゲーム業界の悪役に見えるが,それはゲーム企業の経営者達がゲームとは無関係な経営陣の介入を極度に嫌っているからで,その傾向はこれからも変わらないだろう。これからの10年も,多くの再編やハプニングが繰り返されていくはずだ。さらに10年先,2027年にはいったいどのような姿になっているのか,楽しみだ。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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