ゲーミフィケーション/参加型社会貢献コンテンツ「PicTrée」（ピクトレ）のコンセプトと狙い。参画5社による共同発表会レポート

　Digital Entertainment Asset（以下，DEA）と東京電力パワーグリッド（以下，東京電力PG），Greenway Grid Global（以下，GGG），ジオテクノロジーズ，KDDIの5社は2024年3月15日，「参加型社会貢献ゲームプラットフォーム」の立ち上げに関する共同発表会を東京都内で開催した。


　この発表会では，Web3およびゲーミフィケーションを用いた参加型社会貢献コンテンツ「PicTrée（ピクトレ）〜ぼくとわたしの電柱合戦〜」（以下，「ピクトレ」）の概要と，各社が同コンテンツにどのような形で携わっているのかが紹介された。

　「ピクトレ」は，プレイヤーが電柱やマンホールといった電力アセットの撮影を行い，電線をつないだ長さなどを競うWeb3ゲームだ。撮影した写真は東京電力に送られ，インフラ設備などの異常の早期発見などに貢献できる。
　また，プレイヤーはゲーム内の活躍に応じて，Amazonギフト券や，DEAが提供するGameFiプラットフォーム PlayMiningなどで使える暗号資産DEAPcoin（DEP）を獲得できる。


　「ピクトレ」は，群馬県前橋市が抱える社会課題の解決や新しい価値の創造に向けた「都市魅力アップ共創推進事業」プロジェクトに参加しており，4月13日より市内にて電力業界初となる参加型社会貢献コンテンツの実証試験を予定している。

　GGG Manager 鬼頭和希氏によると，「ピクトレ」の取り組みはDEAと東京電力PG，GGGの3社が進めている「Growth Rings Project」の一環とのこと。Web3業界は金目当てに参入し，場を荒らして去って行く人が多いという印象を抱かれやすいが，そうした一時の流行に流されるのではなく，一歩一歩継続的かつ永続的に成長し続けるという思いが，このプロジェクト名に込められているという。

鬼頭和希氏

　同プロジェクトのコンセプトは「共に持続可能な未来を創る」。これには「プレイヤーがゲームそのものを楽しみながら，暗号資産を獲得可能」，同時に「プレイヤーがゲームを通じて社会貢献できる」という意味がある。


　続いて，NFTは現在，寄付や地方創生などにも使われるようになったが，今後は社会貢献の分野で活用されるのではないかという鬼頭氏らの仮説が紹介された。まず，「○○ to Earn」コンテンツで企業がお金を得るポイントは大きく3つあり，1つはユーザーのアプリ内課金，もう1つはアプリ内広告。ここまではWeb2時代と同じである。

　最後の1つは，そのアプリに入るための入場券としてNFTをユーザーに販売することで，実はこれが売上の主力になっている。つまり，入場券としてのNFTが売れるほど，ユーザーに配布できる原資が増え，稼げるユーザーも増えていく。その一方で，NFTが飽和状態に達すると，減資が少なくなり，いわゆるポンジ・スキーム──投資詐欺のような状態に陥る。


　鬼頭氏は「○○ to Earn」コンテンツの現状を説明したうえで，「このビジネスモデルを，サステナブルにできれば非常に魅力がある」と述べる。企業の困りごとを解決する社会貢献を，「○○ to Earn」コンテンツにおける4つめのお金を得るポイントにできたら，事業として成立するのではないか。こうした仮説をもとに，プロジェクトをスタートしたことを明かした。

　もともとGGGは東京電力と中部電力が作ったジョイントベンチャーであり，鬼頭氏自身も東京電力から出向してGGGに勤務していることから，電柱や鉄塔などの電力アセットに着目。それらにかかる点検コストが莫大な額になっており，その課題を解決できないかと考え，「ピクトレ」のアイデアが生まれたそうだ。


　「ピクトレ」によって，プレイヤーはゲームを楽しみながら報酬が得られる。同時に東京電力の設備保全に寄与するという社会貢献ができるわけだが，さらに鬼頭氏は「市民の皆さんにとって邪魔なものであった電柱が，愛される存在になるといった新たな価値を生み出すかもしれない」と期待を語った。

　実証実験の舞台となる前橋市も，電柱に掲げられ，住所を示す「街区表示板」の維持管理に少し課題を感じていたとのこと。そのため，「ピクトレ」のローンチ時には東京電力の電柱およびマンホールに加え，街区表示板が撮影対象となる。


　参加型社会貢献ゲームプラットフォームを使って目指すものを，鬼頭氏は「今までは公共に頼り切っていたインフラ設備の保全を，そこに住む市民の方々が自ら楽しみながらやる未来」と表現し，「インフラが自分のコトやモノになっていく世界，その結果，誰からも愛され続ける街を持続可能的に実現する」とまとめた。

　DEA Founder & Co-CEO 山田耕三氏は，「ピクトレ」の具体的な取り組みを紹介した。まず前提としてコンテンツには誰でも参加でき，かつ同一ツールを使ってデジタルでつながれることが重要だという。

山田耕三氏

　また，前橋市における実証実験では期間中，さまざまな世代が参加できるイベントを開催する。
　その1つが「大学対抗イベント」だ。群馬大学と前橋工科大学，共愛学園前橋国際大学，群馬医療福祉大学が参加し，それぞれの大学の看板を背負って「ピクトレ」で勝敗を競う。さらに番組制作会社や芸能事務所も参画し，テレビ番組として群馬テレビで放映するほか，番組をYouTubeでも配信するという。この取り組みは，「ピクトレ」がインフラ点検を市民にアウトソーシングするだけのものではないことを，強くアピールするために行われる。そのほか，親子や祖父母，孫，障がい者が参加できるイベントや，地元のスポーツクラブとコラボしたイベントなどを予定している。

「ピクトレ」はプレイヤーが3チームに分かれて競い，撮影した電柱同士を電線アイテムでつなぎ，その長さがポイントになる

デジタルコンテンツの利点を活かし，グローバルに展開していく

Web3視点から見た参加型社会貢献ゲームと，昨今話題のDePINとの関係にも言及があった

参加型社会貢献ゲームのまとめ

　発表会の後半には，5社の代表者によるパネルディスカッションが行われ，プロジェクトにおける各社の役割や，今後の期待と展望などが語られた。


　東京電力PG 経営企画室経営戦略グループ兼海外事業推進室 平田直人氏は，同社の大きな役割を「楽しんでいただくための一番最初の部分であるデータ提供」と述べた。また，邪魔に思われがちな電柱がエンターテイメントとして楽しまれることに，「我々のアセットに新たな使い方を見出したり，新たな価値を生み出したりしていただけるのはすごいこと」と話す。
　「ピクトレ」が設備保全に貢献するかどうかは，やってみなければ分からないとしたうえで，「少しでも役立つ写真が集まるとありがたい」と期待を寄せていた。

平田直人氏

　位置情報サービス「トリマ」のサービス提供やデジタル地図の開発を行っているジオテクノロジーズの常務執行役員 メタバースBU統括兼Application統括 豊田俊作氏は，同社が「ピクトレ」とは異なる参加型社会貢献コンテンツに取り組んでいることを紹介した。自社が持つ強みを活かし，一般のユーザーの協力を得て情報を収集し，より良い地図を作り出すアプリを開発しているという。

豊田俊作氏

　KDDIの事業創造本部 Web3推進部 部長 館林俊平氏は，通信会社であれば通信用アンテナを保全しなければならないように，電力会社以外の事業者もインフラ設備保全の課題を抱えていることを指摘する。同社ではそうした企業をパートナーとして，参加型社会貢献ゲームプラットフォームにマッチングさせていくのが得意であると語った。

館林俊平氏

　また，山田氏は3月4日の記者会見において，前橋市で「ピクトレ」の実証実験を発表した際，東京電力の全社員にコンテンツが紹介されたことに言及。「3万人以上の社員がそのままアクティブユーザーになれば，一気に世界1位のWeb3アプリになり得る。今までになかったマーケティングのアプローチであり，Web3業界で行われているマスアダプションをどう図っていくのかという議論の1つの回答」と見解を示した。


　鬼頭氏は同じく3月4日の記者会見について，山田氏が「チェーンやトークン報酬などに関する質問がなく，Web3が世間に浸透してきていると感じた」といった旨の投稿をしたことに触れ，「Web3の第一人者がそれを言うことが本当に素晴らしい。参加型社会貢献ゲームプラットフォームの展開は世界でもまだ例がないので，この取り組みを起点にグローバルに広げたい」と展望を語っていた。