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「格闘ゲーム選手会×全日本男子プロテニス選手会意見交換会」レポート。長い歴史を持つテニス界の事例から,格闘ゲーム界が学ぶこととは
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印刷2024/01/18 17:00

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「格闘ゲーム選手会×全日本男子プロテニス選手会意見交換会」レポート。長い歴史を持つテニス界の事例から,格闘ゲーム界が学ぶこととは

 2023年12月,格闘ゲーム選手会と全日本男子プロテニス選手会(以下,テニス選手会)の意見交換会が行われた。格闘ゲーム選手会は,格闘ゲームのプロ選手によって組織された団体で,日本eスポーツ連合(JeSU)やゲームメーカーとの対話の場を作り,選手達の意見を伝え,選手自身や競技全体の地位向上や競技環境の改善を図っている。

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 そんな格闘ゲーム選手会だが,eスポーツは歴史が浅く,まだ競技や選手,そして“スポーツとしての扱い”もいまだ曖昧である。そこで,プロスポーツとして長い歴史を持つテニスという競技の選手会から意見交換という形でさまざまな事例や考え方などを学び,今後の活動に生かしていこうというのが,今回の会合の目的となる。参加者は,以下の9名だ。

●格闘ゲーム選手会
ネモ選手
ときど選手
あくあ選手
ももち選手
豊田風佑氏

●テニス選手会
内山靖崇選手(代表理事)
高橋悠介選手(理事)
関口周一選手(監事)
高田真緒選手(元理事)


選手全体のプラスになるような意見を協会などに提出することが基本


 意見交換会は,主に格闘ゲーム選手会の選手達が,先達であるテニス選手会に質問をする形式で進行した。最初の質問は,「テニス選手会を立ち上げたきっかけは?」だ。

 内山選手によると,テニスは個人競技であるため,大会のルールや日本テニス協会(以下,JTA)が決める仕組みなどに対して,選手各自が「何でこうなっているんだ」という疑問や悩みを抱きがちだという。2016年の全日本選手権にて,ある選手が主催のJTAに特定のルールに対し意見したところ,「それは個人の意見だから,選手全体の意見をまとめてほしい」という回答があったそうだ。

内山靖崇選手
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 そこで,選手全体の意見をまとめる組織を作ろうという話になり,約1年さまざまな形で話し合った結果,2018年12月にテニス選手会が発足したそうだ。入会の基準は,JTAランキング100位以内のプロ選手のみだという。

 ただ,テニス選手会の発足当初はさまざまな疑問を持つ選手がいる一方で,そこまで問題意識のない選手や,コーチがJTAの関係者であるため,あまり対立したくないという選手も少なくなかった。しかし,テニス選手会の会員がある程度いなければ,JTAも意見を認めてくれないだろう。そのためテニス選手会は,「労働組合ではない」という姿勢を打ち出しているという。具体的には,テニス界を盛り上げたり環境を改善したりすることを,企業やJTA任せにするのではなく,選手自身達が当事者意識を持って行うという方針を取っているそうだ。

 「テニス選手会が,JTAに対して最初に行ったことは?」という質問には,先代の代表理事と内山選手らが,JTAの専務理事に「テニス選手会を作るという報告をし,JTAと対立したいわけではなく,一緒にテニス界を盛り上げていきたい」と伝えたそうだ。加えて,テニス選手会の発足記者会見を,JTAで行ったという。

 「テニス選手が抱く疑問」の例として,「ナショナルメンバーの選考基準」が挙げられた。実際,2023年のナショナルメンバーに選出された内山選手自身も「すごく曖昧」だと感じているそうで「よく言えば,コーチや監督が各選手の将来性などを加味してメンバーを選んでいる。悪く言えば,好き嫌い。選ばれなかった選手は,もっとそう思っているんじゃないか」と話す。

 実際,テニス選手会が2022年に意見書を提出したところ,JTAはナショナルメンバーの選考基準を明らかにし,「ナショナルチームは日本のトップチームである」ということが明確にされた。内山選手は「テニス選手会のアクションによって,JTAがこれまで塩漬けになっていた規定に手を加えなければならないと考えるようになってきたのではないか」と語る。

 その一方で,「次世代の将来性を加味した選手」という曖昧な選手枠もいまだあり,JTAには「そこも明確にしてほしい」と伝えてはいるが,まだ具体的な動きはないとのこと。例えば,「特定の条件を満たせば,ナショナルチームのサポートを受けられる」といったことが明確になれば,選手のモチベーションとなり,ひいてはランキング向上にもつながって,結果として選手自身のためにもなるという意見も挙がった。

高橋悠介選手
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 意見書によって変わったもう1つの事例として,「選手の活動範囲を狭める規定」も紹介された。テニス選手の収入源は,主に獲得賞金やスポンサーフィーだが,それ以外にテニススクールでのイベントやエキシビションマッチなどもあるという。しかしJTAの規定により,エキシビションマッチをやるためには申請が必要で,「特定の大会と日程が重なってはいけない」などのさまざまなルールの中に「JTAに承認料を払う」というものがあったそうだ。たとえばエキシビションマッチで,総額300万円の賞金が発生するなら,その10%の30万円をJTAに払わなければならなかったのである。

 そして賞金ではなく,選手にギャラが支払われるイベントの承認料は一律で50万円と高額だったという。1回の開催でそれほどの承認料を取られてしまってはイベントが成立しなくなるため,イベント自体が開催されなくなっていく。また申請せずにエキシビションマッチを行った選手は,半年間大会出場停止という罰則もあったため,「絶対にテニスの発展につながらない」と考えたテニス選手会は,「選手達にとって死活問題なので止めてほしい」という意見書をJTAに提出したそうだ。それにより,今なお罰則が少し残っているものの,承認料に関しては撤廃されたという。

高田真緒選手
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 そうしたテニス界の事例の紹介を受けて,格闘ゲーム選手会もeスポーツ界の現状を説明した。eスポーツ界はまだ歴史が浅いため,テニス界のように塩漬けになって現代に則していないようなルールはない。団体としてはJeSUが存在するが,豊田氏によれば,大会を開催するときは「ストリートファイター」シリーズであればカプコン,「鉄拳」シリーズであればバンダイナムコエンターテインメントといったように,IPを保有するメーカーと直接やり取りするケースが普通になっているそうだ。

 ただその状況では,選手達がメーカーの希望に沿った形で活動せざるを得ない部分が生ずる。たとえばコロナ禍以前は,「ストリートファイター」シリーズの公式大会が世界各地で開催され,選手各自が出場して大きな賞金を得ることが可能だったが,最近では国内公式チームリーグ戦の「ストリートファイターリーグ」(以下,SFL)が開催されるようになり,各選手はチームに所属して出場するようになった。
 言わば,選手達はカプコンから仕事を請け負う状態となっているため,それに伴う問題がいくつか生じており,格闘ゲーム選手会もSFLに対する意見書をカプコンに提出しているそうだ。

 またeスポーツならではの問題も紹介された。「ストリートファイターV」が競技種目として選ばれた第19回アジア競技大会は,もともと2022年開催予定だったが,コロナ禍により2023年9月開催に延期された。その延期している間の2023年6月には,「ストリートファイター6」がリリースされている。そのため「競技種目をストリートファイター6に変えてほしい」というむねの署名を,格闘ゲーム選手会のメンバーはもちろん,アジア競技大会に参加するほかの国の選手からも集めて,アジア競技連盟に提出したとのこと。ただ残念ながら,競技種目は「ストリートファイターV」のまま変わらなかった。

豊田風佑氏
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 eスポーツと違い,テニスは歴史が長いために試合のルールが大きく変わってしまうということはまずないが,ATPツアー,ATPチャレンジャーツアー,ITFフューチャーズ,そして国内大会と,選手によって競うカテゴリーが違うため,テニス選手会の中でも問題となる部分が異なるという。

 もっとも意見が分かれるのは,国内最大の大会である全日本テニス選手権で,普段海外に遠征している選手からは,「もっと賞金を上げてほしい」「試合数が減れば身体の負担も減るので,出場選手を絞ってほしい」といった意見が出るという。その一方で,国内を中心に活動している選手としては,出場枠が減るのは単純に困ってしまう。そうなると,テニス選手会としてもなかなかこの件には触れにくくなるというわけで,内山選手は「JTAに意見書を出すにしても,会員全員に対してプラスになる方向のものになる」と話していた。


国内ランキング100位に入っても,テニス専業で生活できるわけではない


 テニス選手会のもう1つの大きな取り組みとして,「外部と提携を結び,選手として活動しやすいようにする」ことが紹介された。外部の企業と提携を結んでサポートを受け,選手達がテニス選手会に入会することでメリットを享受できるようにしているとのこと。

 テニス選手会が,会員の選手達に対して定期的に「活動している上で困りごとはないか」といったアンケートを取っているという話題になると,格闘ゲーム選手会から「もっと多くの格闘ゲーマーから,頻繁に意見を吸い上げたい」という課題が挙げられた。格闘ゲーム選手会は現状8名,そのうち選手は6名と規模が小さいため,スピード感が重要になる提案をなかなか出せないのが現状のようだ。

ネモ選手
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 また「プロ選手が専業で生活できるのか」という話題も出た。格闘ゲーム選手会からは,「ストリートファイター6」のプロライセンスを持っている選手は現状70名前後だが,専業で生活できているのは半分以下だとの説明がなされた。さらに「ストリートファイター6」のプロライセンスは,「ストリートファイターV」のそれを持っていれば,そのまま継承される──つまり競技種目やルールが変わっているので,「ストリートファイター6」のプロライセンス所有者だと言っても,必ずしも現状では活躍できていないプロ選手が存在することも挙げられた。

 一方,テニスのプロ選手も,たとえばテニス選手会の入会基準である国内ランキング100位に入っているからといって,専業で生活できるわけではないという。30〜40位でも,副業でテニススクールのコーチをやっているプロ選手がいるとのこと。

 また世間にテニススクールが数多くあり,比較的容易にプロ選手がコーチ業を副業にできる一方で,それをやってしまうと国内でしか活動できないことも問題として挙がった。海外遠征は最低でも2〜3週間はかかるため,コーチ業との両立は難しいそうだ。

 eスポーツのプロ選手の副業としては,オンラインでの動画投稿や生配信により,ファンからの支援という形で収入を得ることが挙げられた。その一方で,そうした生配信などは,広報や営業の観点から,むしろプロ選手としての活動の一環となっているという意見や,すでに数多くのファンがいる選手なら収入源になり得るが,デビューしたばかりなどあまり認知されていない選手にとっては収入として担保されていないため,ボーナスに過ぎないという意見も挙がった。

 加えてeスポーツの場合,テニスを含むスポーツのように指導料を取ってプレイを教えることが難しい──すなわちコーチ業を副業にできないことも話題に挙がった。その理由は,競技種目がゲームであるため,それぞれのメーカーが著作権を持っているからである。ただ長期的な視点では,そのゲームの宣伝や普及に寄与するため,メーカーが規約を設けて大会の開催やプレイ動画配信の収益化を許可しているように,ゲームのコーチ業も収益化できるようになるのではないかという意見も出されていた。

ときど選手
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 テニス界における企業との取り組みとしては,企業が主催し,プロ選手と実業団の選手が参加可能な大会があることが紹介された。それらの大会は,もともとの成り立ちがアマチュア大会で,段階的にプロ選手も参加可能になっていったこともあり,プロ選手としては「何でこんなルールになっているのか」といった思いがあったそうだが,企業と契約して遠征費をもらっているため,なかなか干渉しづらい背景があったようだ。

 それら企業が主催する大会では,チームによっては外国人選手と契約して戦力強化を図るところもあり,アマチュア選手が多いチームから反感を買うこともあるという。外国人選手の活躍で勝てたチームの選手達は,ボーナスが出たり翌年の契約金が増えたりといった可能性も生ずる。その一方では,外国人選手と契約することで,アマチュア選手や国内で活動している選手が活躍する場が失われるのも確かである。このように一方の観点だけで判断しにくいのも,大会のルールに干渉しづらい理由だそうだ。

 格闘ゲーム選手会からも,「プロ選手がよかれと思っても,アマチュアや一般のプレイヤーに対して制限がかかる提案もあるため,気を付けなければならない」という意見が挙がった。たとえば多くの格闘ゲームでは技を繰り出すために,コマンドを入力しなければならないが,それを1ボタンでできるようにすることも技術的には可能だ。

 ただ当然,そうしたデバイスの使用は,多くの大会にてルールで禁止されている。しかし,コロナ禍以降頻繁に開催されるようになったオンライン大会ではチェックができないため,禁止されているデバイスを使って不正を行っている出場者がいないとは限らない。eスポーツに真剣に取り組んでいる選手としては,そうした不正が行われないよう,デバイスのチェックや規制にしっかり取り組んでほしいところだろう。

 しかしその一方で,あまりルールを厳しくすると,ライトな格闘ゲーマーにとってはチェックや規制の多さから大会に参加しにくくなるというデメリットが生じる。また昨今では,身体に障害のある人がeスポーツを楽しむケースも増えている。そうした人達は,通常のデバイスをうまく扱えないため,それぞれの身体に合わせてカスタマイズを施したデバイスを使っていることもある。デバイスの規定を厳しくすることで,身体に障害のある人達がeスポーツ大会に参加できない可能性が生ずるわけだ。

 そうした現状を踏まえ,多くの人がeスポーツを楽しんだり,大会に参加したりできるようにするために,ルールにある程度の自由度を残しておくのがベターであるという。ただ,その自由度を悪用する人もいるため,そのバランスをどこに置くかが課題となっているという見解が,格闘ゲーム選手会から挙がった。

あくあ選手
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 不正という観点では,テニス界はドーピングチェックが年々厳しくなっているとのこと。ドーピング検査は,日本アンチ・ドーピング機構などの団体が抜き打ちで行うもので,競技会検査と競技会外検査がある。競技会検査は,試合が終わってコートを出た直後に,検査員から「今日,ドーピング検査をやります」と声をかけられ,そのあとは1日中ついて回られるという。

 そして競技会外検査は,いつどこで行われるか分からないそうだ。選手達は,1年365日,毎日欠かさず「1時間は絶対ここにいる」ということを報告し,いつ来るかも知れないドーピング検査に備えなければならない。たとえ旅行中であっても,滞在先のホテルで検査が行われるという。

 また検査員が訪れたときに,選手が報告した時間と場所にいないということが1年のうちに3回あると,ドーピングした場合と同じ罰則が適用されるそうだ。内山選手は,うっかり報告の更新をし忘れて,あと1回でアウトになるという状況で,自宅で無事ドーピング検査を受けられたそうで,その日がたまたま誕生日だったため,検査員から「ハッピーバースデー」と祝われたそうだ。

 なおテニスの大会で,優勝した選手のドーピングが発覚しても,準優勝の選手が繰り上げ優勝になることはなく,準優勝のままで再試合などもないとのこと。それを受けた格闘ゲーム選手会からは,eスポーツ大会でチートが発覚した選手を失格にするのは当然として,その選手に負けた選手達をどう扱うかという議論が持ち上がった。

 豊田氏が「負けた側からすると,やり直してほしいのではないか。eスポーツなら1週間もあれば,すべて再試合できるのでは」との見解を示すと,選手達からは「全試合をやり直すとなると,また別の問題が発生しかねない」「その大会にすごく気合いを入れて臨んでいるから,『もう1回』は厳しい」という,競技者視点の意見が挙がった。

 話題は,2024年2月に開催される「ストリートファイター6」の公式大会「CAPCOM CUP X」にもおよんだ。この大会の出場選手40名のうち30名以上は,世界各国のオンライン大会で出場権を獲得するのだが,上記のとおり不正チェックが行われていない。格闘ゲーム選手会からは,「優勝賞金が100万ドル,日本円にして1億4500万円にも上るため,賞金目当てに不正を行って出場する選手がいてもおかしくない」という危惧が挙がった。

ももち選手
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情報発信,会員のモチベーション維持,セカンドキャリアなど共通する課題も

 
 「テニス選手会が,ほかのスポーツの選手会と意見交換する中で,参考にした部分はあるか」という格闘ゲーム選手会からの質問には,選手会としての姿勢が挙げられた。たとえば日本プロ野球選手会は,何か動きがあるとSNSなどで大きくアピールしているが,テニス選手会はそれまであまりそういったアクションをしてこなかったそうだ。

 しかし上記のテニス選手会の意見によって規定が変わったケースでは,日本プロ野球選手会の姿勢に倣って,大きくアピールしたとのこと。そこには「こんな規定があるので,選手達のために変えたい」ということをテニスファンに知ってもらい,選手会の活動を広くファンにも伝えたいという意図があったという。

 格闘ゲーム選手会も以前のテニス選手会と同様に,活動を大きくアピールしていないが,実は水面下ではさまざまな意見書をメーカーなどに提出されているそうだ。ただ,それらを公開するとメーカーがデメリットを被ったり,あるいは選手にとっていいことでもファンには関係なかったりといった理由で,すべてを明らかにはしていないという。ただ今後は,「この日にメーカーと意見交換を行った」といったような簡単な活動報告を,SNSなどで行うことも検討していくそうだ。

 そうした情報発信の場として,テニス選手会ではWebサイトとInstagram,Facebook,Xを活用していることが紹介された。以前はLINEも使っていたが,現在は止まっており,この先どうするかを検討しているとのこと。また賛助会員制度もあり,ファンから応援という形で支援してもらう代わりに,懇親会のような形で一緒に食事などをしているとのこと。

 格闘ゲーム選手会からは,現在は会員やほかの選手が潤滑に活動できるよう頑張っているが,仮に今後,賛助会員制度のようなものを設けるならば,支援してくれたファンのために情報発信しなければならないという意見が挙がった。それに対してテニス選手会からは,そうしたファンサービス的な側面は本質ではなく,選手会はあくまでも選手のためのものであるとの見解が示された。もちろんファンサービスはするが,それほど積極的にならなくとも,選手それぞれがSNSを活用することで似たようなことを実現可能であり,方向性を間違えずに自分達にしかできないことをやっていくそうだ。

 話題は,格闘ゲーム選手会が「選手会だけが有利になる意見を出すのではないか」と思われがちであることにもおよんだ。格闘ゲーム選手会としては,「プロゲーマーたちはぜひ選手会に対して意見を送ってほしい」という姿勢を取っているとのこと。

 またテニス選手会もほぼ同じで,当初は理事が積極的に呼びかけて,多くの選手をミーティングなどに集めていたが,結局意見を出すのは経験の多い特定の選手ばかりになってしまったという。そうなると,意見を出せなかった選手達はフェードアウトしていく。理事達は「何で参加してくれないのか」と訴えかけるが,それでも思ったような反応を得られないため,集まった選手達の意見を優先することになってしまっているそうだ。

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 「選手のセカンドキャリアに,テニス選手会は関わっているのか」という質問には,まさに2023年11月,テニス選手会がキャリアコンサルタントを講師に招いてセカンドキャリアセミナーを行ったことが紹介された。参加率は20%程度とのことだが,実際に参加すればセカンドキャリアについてポジティブに考えるようになるため,今後もさまざまな形で継続していくとのこと。またテニス選手のセカンドキャリアは,8割近くがコーチ業だという。
 
 格闘ゲーム選手会からは,まだセカンドキャリアにたどり着いた人材がほぼおらず,現役選手達自身が,どうなっていくのかと考えていることが明かされた。仮に今後,コーチ業の収益化が可能になったとしても,たとえば「ストリートファイター6」で活躍していた選手が,別のゲームになるであろう次回作以降の「ストリートファイター」シリーズのコーチができるかと言うと,教えられる技術は多少あるが,なかなか難しいという意見が挙がった。

 そうした問題は,テニス界にもあるそうだ。テニスの仕組みやルールは確かに変わらないが,プレイのレベルが年々挙がっており,中身が徐々に変わっていくので,年配の指導者やコーチは次第に時代に合わなくなってしまうという。ただ,テニスは裾野の広いスポーツでプレイ人口が多いため,プロにまでなった人材のコーチとしての需要は間違いなくあるようだ。

 またeスポーツ界では,活躍した選手がスカウトされてメーカーに入社し,競技種目となるゲームのバランス調整に携わったりすることもある。ただ,それは極めて限られたケースであり,テニスのコーチのように8割がその道に進めるということはまずない。格闘ゲーム選手会からは,若い人達に将来プロを目指してほしいけれど,自分達のセカンドキャリアも分からないのに「素晴らしい世界だよ」とは誘いづらいという意見が挙がった。

 そうした意見を受けて,テニス選手会からは書籍「テニスプロはつらいよ 世界を飛び,超格差社会を闘う」が紹介された。この書籍は,関口選手の半生をベースに,プロテニス選手の経済事情を明かしたもの。具体的には,錦織 圭選手と関口選手の年収やランキング,獲得賞金などの比較や,ジュニア時代に世界ランキング5位を記録した関口選手がプロになるまでの金銭的な負担などが,リアルな数字を含めて記されている。関口選手自身によると,「プロとしてやっていくのは大変だ」と納得してくれる読者もいれば,「子どもの夢を壊すな」という感想を述べる読者もいるという。

関口周一選手
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 ただ,関口選手が「親も含めて,それでもやりたいかどうかを問いたかった」と語ると,格闘ゲーム選手会からは「我々は好きでゲームをやってきて,たまたま時代の流れでプロになった世代。今の若い人達は最初からプロを目指しているが,親も含めて考えることは大事」という意見が挙がった。

 そのほか,スポーツベッティングが盛んなテニス界では,ある選手がランキングの低い選手との試合でずっとリードしていたのに逆転負けしてしまい,その選手に賭けていた人が誹謗中傷のメッセージを送りつけてくるという事例も紹介された。

 eスポーツ界ではまだそういった事例は聞かないが,今後eスポーツ専門のブックメーカーが盛り上がっていけば,そうしたことも当然あり得る。豊田氏は,経済産業省主催のeスポーツの研究会に客員として招かれた際に,今後eスポーツにベッティングできるようになるなら,まず選手達に危害が加わらないようなルールや仕組みを作らなければならないと提言したことを明かした。

 意見交換会の最後には,両選手会の選手達が口々に「お話を聞けて楽しかった」とコメント。とくに内山選手は,JTAが2023年1月に100周年を迎えたことに言及し,「歴史が長いゆえに,なかなかルールが変えられないという難しさがある」と,後進である格闘ゲーム選手会の選手達に話しかけていた。

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